「痴人の愛」


実家は裕福な30代のおぼっちゃまで仕事も結構稼いでる男性が カフェで働いていたある少女を見初めて 17の頃から世話をやいているうちに彼女に惚れ、妻として迎えるのだが・・。

英語やピアノのお稽古事に、社交ダンスを共に習ったり、
品性と西洋的な華やかさを備えつつ 社交的で洗練された女性へと育てあげられたナオミ。
最初は 慎ましやかで 純朴な彼女だったのだけれど、
いつもまにか 彼の過保護と甘やかしすぎが 彼女の買い物好きに輪をかけて 何枚も着物や洋服をたくみにねだり手に入れる そして別荘や豪華旅行をねだる 贅沢三昧な女へと変えていく。
そして 愛想の良い性格が転じて 度が過ぎるほどの自由奔放さでもって 結婚をしているというのに 蔭で悪知恵を働かせながら BFを何人も作ってしまうような女へと染まるのである。
しかし、彼女のすごいところは、からっとしていて ちっとも悪びれてないところである。
"楽しければいいじゃない!?これは ただの遊び!”とばかりに 
罪悪感そっちのけで あまりにもあっけらかんとしているので、
旦那様である彼は 怒りを通りこして あきれかえるというか 唖然とするぐらいなのである。

一度は その裏切りと精神的屈辱感に 三行半を言い渡されたナオミだけれど、彼ほど 自由に贅沢三昧をさせてくれる男は他にいなかったのか、いたぶり概があるのか、なんやかんやいっても夫のことを愛していたのか、
彼がまたナオミを欲してやまないように しぐさ巧みに言葉巧みに 
誘惑するのである。 

メーキャップを変えたり 艶肌の手入れも念入り、それより驚かされるのが、彼女は 彼が精神的に彼女に何かしてあげたくなるように仕向けるのにとても長けていて、気がついたら 譲治は まるで奴隷のようにナオミというサドの言いなりになっている。
彼は、その状況を客観的に感じつつも、
”いけない、いけない。この罠に引っかかってはいけない!”と思いながらも、花の甘い蜜の香りに吸い寄せられる蜂のように 翻弄され陶酔していくのである。 
明らかに彼女の都合のいいように、彼女の望むことを優先で 男は振り回されているというのに、それを分かっていても その紐にくらいつかずにはいられない、そんな男の性:マゾ性が顕わに描かれている。

とはいえ 谷崎の文章のなすところ、
艶っぽく芳醇で、美しい描写なのである。たとえば 女性の湯上り姿の描写のくだり。


”一体女の「湯上り姿」と云うものは、ーーーそれの真の美しさは、
風呂から上がったばかりの時よりも、十五分なり二十分なり、多少時間を置いてからがいい。
風呂に浸かるとどんなに皮膚の綺麗な女でも、一時は肌が茹り過ぎて、
指の先などが赤くふやけるものですが、やがて体が適当な温度に冷やされると、初めて蝋が固まったように透き徹って来る。
ナオミは今しも、風呂の帰りに戸外の風に吹かれて来たので、湯上り姿の最も美しい瞬間にいました。
その脆弱な、うすい皮膚は、まだ水蒸気を含みながらも真っ白に冴え、
着物の襟に隠れている胸のあたりには、水彩墨の絵の具のような紫色の蔭があります。
顔はつやつやと、ゼラチンの膜を張ったかの如く光沢を帯び、ただ眉毛だけがじっとり濡れていて、その上にはカラリと晴れた冬の空が、窓を透してほんのり青く映っています。”

(谷崎潤一郎「痴人の愛」より引用。)



この小説は 文体も品があって美しいし読み応えありました。
さすが日本を代表する文豪:谷崎潤一郎ですね。
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by inner-vision916 | 2008-07-02 20:26 | 絵本と小説